真武 仲合、同盟会話
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仲合物語
上善若水
その隣に桃の木が咲き誇っており、花びらが水面に舞い落ちる。その光景はとても美しい。
その光景に私は遊び心をくすぐられた。
靴下と靴を脱ぎ冷たい水の中に入り、その水しぶきで桃の花びらがゆらゆら揺れる。
そのとき、突然滝の方からため息が聞こえた。
私は驚いたが、すぐに声を辿っていくと、真武が滝下の岩で胡坐をかいているのを見つけた。その姿が滝の岩と一体になったせいで今まで気付かなかった。
無剣:こ…ここで何しているの?驚いた
無剣:真武は目を開き、私の方を見た。
真武:誤解だ。我はただここが静かだから座禅の修行をしている。
無剣:ここが…静か?
周りを見渡すと、滝の音は山野に鳴り響くほどの轟音まではしないが、遠くから聞こえてくる。近くにいると水の流れる音がザーザーして、全く静かではないだろう。
真武はまるで私の考えを見抜いたように笑みを浮かべた。
真武:上善は水のごとし、水はよく万物を利して、しかも争わず。心を落ち着かせ、波の立たぬ水のように。
真武:水は静かでもあり、騒がしくもある。山の石から下に注がれ、滝となれば、林の中でさらさらと流れ、渓流ともなる。重要なのは君がどう見るかだ。
無剣:何か奥深いな…分からない…
真武:目を瞑り、耳を澄まして聴いてみろ。
私は真武の言う通りに目を瞑り、耳で周囲の音を聴いた。
元々騒がしい滝の音が知らずに音律を帯び始めた。それが繰り返され、まるで水が奏でる楽曲のようだ。
私は目を開き、驚いた様子で真武の方を見た。
無剣:変だな…今目を瞑って聴いてみると、騒がしいどころか音律を帯びていて、心を静かにさせる。
真武:この世のすべては自分の心次第だ。どこにいても心が静かなら、すべては静かに感じ取れる。心が落ち着かないなら、すべては騒がしく感じるだろ。
無剣:今、少し理解した。
真武:この桃花流水のように、そこから絵に描いたような風景が見えた人もいれば、儚く散る花が見えた人もいるということ?
真武:うん、そうだな…君は賢く、理解が早い。修行すればいつか登峰造極の境地に到達するかもしれない。
無剣:修行…そんなこと考えたことがない。貴方はなぜ修行するの?
無剣:人々は長寿のために修行するが、長寿は貴方にとってはもう無意味じゃない?
真武:修行は即ち心の修練、心を悟れば修行の目的に近づくことができる。
真武:修行はその真義を理解するため、心の答えを探すためにある。
無剣:な…なら一緒に修行してもいい?
真武:君は修行に興味あるのか?
無剣:私にもいろいろ分からないことがある。自分が誰なのか、どこから来たのか、どこへ向かうのかを知りたい。
無剣:貴方と一緒に修行したら、心の答えを見つけられるかもしれない。
真武:なるほど、修行はきっと君にとって為になるぞ。
無剣:本当?じゃこれからもいろいろ話をしに来てもいいの?何だか貴方に質問したいことがたくさん出てきちゃった。
真武は私を見て微笑んだ。
真武:我と道の論理を語りたいのなら、いつでも訪ねて来るが良い、時間は惜しまぬ
孤独の歳月
真武に会う度に、天から神がこの世に降りてきたと思った。
真武のいるところは人と自然が一体となり、天地の間が安らかで静かな場所。
彼のそばにいるだけで、心が落ち着く。
真武:……
私は真武の隣に座り、手で顎を支え彼をじっと見つめた。手の中の払子から服の柄、頬に垂れてる髪まで。
黒い絹のように滑らかで美しく、光沢のある長い髪。
視線を上に向け、そこにあるのは沈んだ声で起伏し、白い襦袢の襟にきつく縛られている喉仏だ。
さらに上にあるのは、玉のように柔らかく白い首と顔、そしてあの瞑ってる目ときりっとつりあがった眉。
ーー彼が目を開き、私の目を見た。
無剣:わ…私、修行の邪魔をしてる?
彼に見つめられて急いで座る。少し緊張もしている。
真武:構わない。
真武:我の前で堅苦しくせずともいい、まぁ、まずは肩の力を抜きなさい
真武:君は今日我と修行について語りたいのか?
無剣:語る…どういうこと?よく分からないけど、以前もよく人と修行を語ってきたの?
真武:そうでもない。長い間にわたって、我は一人で修行を行っていたので、誰一人我と修行を語ったことはなかった。
無剣:長いって…どれくらい長く?
真武:およそ、数百年だ。
彼の口から平然と出た答えに、私は呆気にとられた。
数百年もの間で、誰一人と連れ添い、語り合うことなく、ただ一人修行を続け、年月を数えてきた。
無剣:修行に明け暮れること以外で、寂しいと感じたことはないの?
無剣:友達を作って、一緒に修行したり、語り合ったりしたことはなかったの?は
真武:友達…か…
真武:昔はそういう人がいたんだが…
彼は少し顔を上げ、果てしない大空に目をやった。
真武:戦国時代から長い年月が過ぎ、世は移り変わってしまった。唯一変わらないものはこの悠久な青空ぐらいだ。
彼の口調は湖のように和やかだが、少し切なさを感じられた。
無剣:私は修行のことはあまり分からないし、あなたと語るにはまだまだ未熟かもしれないけど…
真武:貴方の話を聴きたい。一緒に修行してもいい?
真武:これはこれは、なんとも意外だ
彼は私を見て、微笑んで頷いた。
真武:君にその気持ちがあるならば、我は喜んで受け入れる。
真武:君がいつ来ても我はここにいるから。
揺れる心
真武:真経曰く「昔も今も静を常に心の中で思う。」だそう。
真武:修練をするとまず体が落ち着く。体が落ち着けば心も落ち着く。体も心も落ち着けば、静の境地に入りやすい。
真武は真剣に私に静の境地に入る方法を説明しているが、私はこっそり彼を見つめている。
彼の真剣な様子を見る度に、私の視線はその顔に釘付けだ。
真武:雑念を振り切るために、静の境地に入るための口訣を唱え、天人相関説の境地に入る。
真武:口訣を唱えることで精神が集中し、静坐したようになる、心の中に常に「静」という文字を思う。
真武:座って暗唱したほうがいい、回数は自分で決めて、静の境地に入るーー
突然彼は私の方を向いた。ちょうど目と目が合った。
真武:君は話を聴いているのか?
無剣:と…当然聴いてるよ…
私は自信なさげに目を逸らし、地面に向けた。
真武:やれやれ…汝は修行がまだまだ足りないぞ。体も落ち着かせられないようじゃ、心が静かになるわけもない。
無剣:分かった。今度はちゃんと聴く。
私はきちんと座り直し両手を膝に置いて、真剣に耳を傾けた。
真武:心の中で入静法を使う、つまり気を操る。
真武の淡く静かな声は、かすかに仙人のような儚さが感じられ、天の声に聞こえる。
私の視線は知らずと彼の眉、そして動いてる唇に落ちた。
真武:………………
突然彼は止まって唇を閉じた。
私が不思議に思い顔を上げると、視線の先にある彼の顔はかすかに赤くなっている。
真武:貴方は今どこを見ている?
無剣:貴方を見てるけど…あれ? 「君」と言わないのか?
突然彼が私への呼び方を変えたことに気づいた。彼の顔が一層赤くなった。
真武:ゴホ。
彼はごまかすように咳をして、顔を下に向けて手の中の払子を振った。
真武:今日はここまでだ。
私は何も言えずに彼はそのまま慌てて去っていった。
無剣:まさか真武は…照れているの?
流水桃花
この日、ようやく滝で彼を見つけた。
しかし、彼はあの岩にいつものように座っておらず、一人で小さい湖の横で佇んで、あの咲き乱れた桃の木を眺めている。
私はこっそり彼の背後に回った。彼は真剣に桃の木を見ているからか、私の存在に気づいていないようだ。
無剣:桃の花がきれいに咲いているでしょう?
彼がこわばって頭を私に向けた。
真武:君 …
無剣:また「君」に変わった…
私は深くため息をつくと、彼が少しためらったままこっちを見た。
無剣:「君」と呼ばれると、何か距離が遠くなるような気がするんだけど。
真武:では…どう呼べばいいのか?
無剣:「君」じゃないなら何でもいい。名前はどう?
真武は私を見つめたまま、何度も躊躇した後ゆっくりと声を出した。
真武:…無剣。
彼が沈んだ声で私の名前を呼ぶと、私は喜びを抑えきれなくなった。
無剣:真武、これからずっとそう呼んでもらえる?
無剣:それは…
真武:貴方に私の名前を呼ばれることがすごく嬉しい
真武:まぁいい…好きにするがよい…
無剣:言葉は仕方ないと言ってるようだが、目は優しさに満ちている。
無劍:今日は何するの?お経を読む?それとも修行を語る?
真武:何が聴きたい?
無剣:うん…普段は修行のとき、道経を読むことと座禅を組むこと以外に何があるの?
真武:剣訣の修練、あるいは法訣結印の修練。
無剣:結印?それは何?教えてもらえる?
真武:結印を学びたいのか?ではまず、真武訣を教えてあげよう。
真武:左手の人差し指を表に、親指は奥に向き、指先で中指を挟む。手のひらと中指の指先は上に向ける。
真武:右手を剣指に変え、右足または左足の上に置く。手のひらを上に、中指の指先を前に向く。
簡単そうに聞こえるが、何度やってもうまくいかない。
真武:この法印は君には少し複雑だったかな?もっと分かりやすい法印を教えようか?
無剣:いや、これがいい。
真武:どうして?
無剣:これは「真武訣」と今言ったでしょう?
この言葉が終わらぬうちに、真武の顔はまた少し赤くなった。
真武:日を改めたほうが…
彼が中断しそうにすると、私は慌てて彼を引き止めた。
無剣:なぜ今日じゃだめなの?絶対に今日頑張って覚えるから。
真武:はあ…今日は都合が悪い。
無剣:なぜ?
真武:それは…今日私の心が落ち着かないから。
真武は私の目線を避けて、あの桃の木に目を向けた。
真武:今日我の心は静かになれず、修行はできない。知らずにここへ来て、桃の花を眺めると、誰かの言葉を思い出してしまう。
真武:この桃花流水のように、そこから絵に描いたような風景が見えた人もいれば、儚く散る花が見えた人もいるということ?
これは…真武に出会ったときに、私が彼にかけた言葉じゃない?
私は興奮と喜びを抑え、彼のそばへ歩いていった。
無剣:今私の目に映ってるものは何か知ってる?
真武は軽く首を横に振った。
私は真武の片手を持ち上げ、その手のひらに文字を書きながら声にして読み始めた。
無剣:落花は流水につく気あり、流水は落花に恋する心あり…
真武の手のひらはかすかに震え、顔の淡い赤みが徐々に、徐々に広がっていく。
同盟会話
○○の真武:我が授ける武芸で世の中の妖魔を払うもよし、身を鍛えるのもよし。
○○の真武:しかし忘れるでない。この武芸、名誉のために使ってはならぬ。
○○の真武:恥ずかしい限りだが、武当も邪悪な輩を一人出してしまったことがある……
○○の真武:分かるか?武と道の本質は同じなのだ。
○○の真武:攻めることと防ぐこと、動くことと止まることは太極の陰陽のように互いに調和し合っているのだ。
○○の真武:我が境界、汝の目で捉えられるかな?
○○の真武:道、とは一体?
○○の真武:我はかつて、武当山に閉じこもり道について考え込んだことがあるが、答えは得られなかった。
○○の真武:汝はどう思う?
判詞
二句目 前代未聞で百年に一人
三句目 時が過ぎて恨みが癒されようとも
四句目 故人を思ひてまた心傷む
五句目 風のようにたおやかに包み込み
六句目 天地の知恵は水のように柔らかい
七句目 落花が慌てて流水を追いかけるのは
八句目 凡人界の情けに動かされたからだろう
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